遺伝子組み換えと貧困

スローフード運動の本で遺伝子組み換え作物に反対する人の発言が取り上げられ、反対派の注目を集めているという。

まず最初に取り上げるのは、ヴァンダナ・シヴァトンデモ発言について。
反遺伝子組み換えグループがこの暴言をまるで英雄的行為のごとく称えているんですが、ヴァンダナ・シヴァの発言内容も、それをもてはやす側の視野の狭さも、はっきり言って反吐が出そうなくらいひどいものです。

「ゴールデンライス」というビタミンAを強化した米があって、貧困層の栄養欠乏を救う為に開発されたものです。ところがそれを食事のバランスに気をつければ解決できる不要な対策であるばかりか農地の為に薬草を摘むこともできなくなり状況を悪化させている、そして先進国の技術で市場を独占するものだと批判したようです。

食について恵まれた環境にある人間には、彼女の発言の問題点はかえって理解しにくいかもしれませんが、彼女の発言の問題点は、単に「リンゴでビタミンAの補給が出来るか阿呆」という話には留まりません。

そもそもバランス良く食べられる環境下にあればビタミンA欠乏など起こらないのです。
最大の問題は、彼らに肉類、乳製品やニンジン、トマトなどビタミンAの補給源を購入するだけの経済的余裕が無いことです。
そして農村部ならまだしも、ビタミン欠乏の最大の病巣である都市部の貧困層にとっては、道端の薬草を摘んで食事に添えるという選択肢すらないのです。

野菜や肉類からビタミンを摂取するだけの余裕を持たない層に対し、バランスの良い食事を取ればいいとか、あぜ道の薬草を摘めばいいなどと発言するのは、現状に対する理解をまるで欠いている発言であり、その日の糧に事欠く人間に対し「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」と言うのと何ら変わりありません。

そして、これが一番重要なのですが、ゴールデンライスの特許は無償公開されています。
最低限のカロリーを摂取するだけで精一杯な層が、それ以上の負担を強いられることなくビタミンAを補給するためのゴールデンライスである以上、これは当然の話です。
度重なるいちゃもん付けの結果、その実用化の日程はずれにずれていますが。

「遺伝子組み換え=企業による支配の道具」という短絡思考に走って、GMと聞けば何でも反対すればいいと勘違いしている人間が多くて研究者は頭を抱えています。実際には小規模農家向け、第三世界向けのGMを研究している研究者も大勢いるのにもかかわらず。
GM反対論者達は、何でもかんでも反対することで、結果的に自分達が守っているつもりの第三世界の貧農・貧困層の首を締めています。

まったくばかげた話ですね。知らないものを知らないまま語った結果ですが、それが注目を集め支持されているというならまずい状況です。
ゴールデンライスのことや他の問題についてはリンク先を見て貰えばより詳しくわかります。
そして遺伝子技術の話。

これは微生物屋には有名な話なのですが、ミツカングループが「におわなっとう」という製品を出していることをご存知でしょうか?

この製品では、当初遺伝子組換えによって臭いの少ない菌を育種していたのですが、遺伝子組換え技術に対する世間の反発を懸念して、わざわざ自然界から20000株の納豆菌をスクリーニングしなおして、その中から臭いの少ないものを選抜、育種して使っています。
遺伝子組換えの株とスクリーニングしなおした株は、同じ遺伝変異を持っており、どちらを使おうと製品の品質に違いはありません。遺伝子組換えという技術に対して消費者の反発が存在するため、わざわざ二度手間をかけたという、バイオ者にとってはあまり笑えない笑い話です。

「組み換え」はやっていませんが結果は同じというわけです。反発を避ける為に無意味なコストをかけてしまった。人為的な遺伝子コントロールの結果「におわなっとう」他の臭いが少ない納豆で問題が起こったでしょうか?納豆ブームで売り切れた商品の中に相当数あったはずですが、栄養状態がちょっと良くなっただけでしょう。
品種改良自体が目的に沿って遺伝子をコントロールすることであり、遺伝子組み換えはそのコストを下げる技術に過ぎない。

遺伝子組み換え技術はその点、狙った目をある程度自由に出すことが可能というまさに反則のような技術革新だったわけですが、その分世間の反発も大きく事実上使用不能になってしまいました。
そこで次に発達してきたのが、遺伝子の変異のサイコロを振るのは運に任せて、ベットする前に出た目を覗き見るチート、ゲノム育種です。
ゲノム情報の蓄積によって、コスト面はともかく、品種改良の速度は従来とは比較にならない程早くなりました。
従来の品種改良では、見た目に分かる表現型の変化を元にした育種しか出来なかったのですが、ゲノム育種では表現型によらず一塩基レベルから遺伝子の変化を把握できます。

より確実に。必要なものを得る為に。本当は多様性をもたらすはずでした。しかし。

問題は、従来技術ほどではないにせよ、このゲノム育種もやはり資本力がものを言う世界だということ。
そして遺伝子組換えと違いあくまで従来の育種技術を用いているため、何ら規制に縛られないということ。
先頭を突っ走っている会社は優に数年分の技術格差を開いているので、多分このまま行くと独走態勢になります。
そして仮にこの技術を規制で縛ろうとした場合も、従来技術もまとめて縛らざるを得ず、新品種の登録に高い壁がそびえ立つことになってそれだけで零細メーカーは立ち往生します。
どちらに転んでも、現状かなり詰みに近い局面です。

現在従来技術で作られた品種には存在しないにも関わらず、遺伝子組み換え品種にのみ存在する安全証明義務と、うなぎのぼりなそのためのコストは、大資本のみを利しており、零細メーカーや小規模研究機関に対する容易ならざる参入障壁となっています。
ゴールデンライスのように一品種の認可に何十億円も掛かる現状では、投資回収のあてがある大企業以外はどこもおいそれと手は出せません。
新品種の作出までは零細でも可能ですが、その後の認可は資本力のあるところにしか越えられないのです。

そして例え認可を越えた所で、待ち受けているのは世間のGM反対の声と不買運動です。
ここ10年で、幾多もの研究者、零細メーカーがGM作物のみならず、作物の品種改良そのものから手を引きました。
資本力のあるところは、たとえ遺伝子組換えを使えずとも上記のゲノム育種のような代替手段が存在するため技術革新の速度は鈍りませんが、資本力の無いところはそうではないため、もはや競争力を失ったのです。

GM反対論者達が不必要なまでに高くした二重の障壁ですが、彼らには自分達がモンサントのライバルをわざわざ排除してやり支配の体制を整えてやっているのだという自覚はありません。
遺伝子組み換え技術が支配の道具?そうさせたのは他ならない自分達だというのに。
GM反対者達は、遺伝子組み換え技術を社会的に抹殺することには成功しましたが、それは結果的に小規模種苗会社や貧農の首を締め、種苗の一極支配の道を開いたのです。

「先進国の大資本による搾取」を加速させる結果になった反対運動。的外れな批判が敵を利するとも知らず、やみくもに反対した結果がこれです。

GM反対運動を行っている者たちが本当に行うべきだったことは、
小規模農家や、有機農家、資本力の無い貧農でも作ることの出来る、彼らのニーズに合った商品価値のある作物を開発することでした。
そこに存在する競争を否定し、技術革新がもたらす新品種の圧倒的なアドバンテージから目を逸らしたところで、待っているのは緩慢な死のみです。
もっとも、彼らが無意味な反対運動にばかりかまけていたせいで、現状では技術格差は開くばかりですが。
上に引用したように、こういった方面に関心を持つ研究者というのは、多数派でこそないものの決して少なくありません。
反対運動にかける熱意の10分の1でもこちらにまわしていれば、現状は少しは違ったはずです。

やっぱり「競争を否定」したんでしょうかね。商業主義を否定して理想を追っても、否定したはずの商業主義に負けて滅びたのでは意味が無い。生き残ることも考えていれば「地域に合った」良い作物ができたかも知れないのに。

二つ、品質やコストでは測れないプレミアを付加すること。もしくは、品質の一点突破を狙うこと。
前者は今現在スローフード運動や地産地消運動がやっていることです。
品質、コスト面で土俵に上がれない場合は決して主流にはなりえませんが、一定の支持を得ることは可能でしょう。
後者は、日本の果樹栽培の成功の理由です。コスト面で見た場合、日本の果物は高すぎて海外製品にかないませんが、品質を突き詰めることで、高級品として海外に輸出されるまでになっています。大量生産品とコストで勝負して勝てるわけが無いので、品質の一点突破を狙うのは、小規模農家の必然の戦略となります。

どのような価値であれ市場では価値が比較され競争に勝ったものが残るのであって、何かしらの運動の成功例も結果としては競争に勝ったものですね。価値を見つける競争です。

その地域にあわせて特化し、なおかつ品質、コスト面で競争力を持つ品種を作り出すことができるならば、そもそもGMだ企業の支配だなどと騒ぐ必要も無いのです。そしてこういった行動を企業に求めるのは間違っています。このマーケットは相対的に小さいので彼らの投資の対象にはなりにくいですから。
日本を含めて先進国は必ず、国家の育種機関を持っており、こうした活動を行っています。それは農産物が戦略物資でもあるからです。反対のための反対でなく本気で企業による独占を阻止したいと言うのであれば、この選択肢が出てこないというのはありえないはずです。

なるほど、企業が利益優先で取り合ってくれなくても国なら違う視点があるか。
それにしても遺伝子組み換え大豆に反対するイリーナ女史ってのは酷いな。アメリカの戦略物資をロシアのトンデモ科学者が攻撃か?w

遺伝子組み換え大豆を与えると実に55.6%という極めて高い死亡率が報告されている。日本のマスコミや市民団体はこれは大変と飛びついたわけだが、はっきり言って高すぎである。仮にも食品用として認可されている食品において、いきなり6割も死ぬというのは、ちょっと考えればあり得ないと言うことが分かるだろう。こうしたとんでもない結果が出ると言うことは、何かがおかしいのだ。

半数とかありえない。最初から売れないっての。

まず、彼女の実験においては、遺伝子組み換え大豆は生のまますりつぶしてマウスに与えられていたらしい。生大豆にはトリプシンインヒビター(trypsin inhibitor)などの毒性物質が含まれており、普通は加熱して不活性化してから与えるのだが、生のまま大量に生大豆を与えられれば、いかにも健康に悪影響が出そうだ。

これは酷い。生で食べられないものだってあるだろう。

諮問委員会は博士の報告は科学論文に求められる厳密性の検証が出来ない以上、評価に値するものではないと断じている。結局エルマコヴァ博士は、現時点に至るまで如何なる追加報告もしておらず、学術的には完全に無視されている。そんないい加減な報告を、日本では大手マスコミが報道し、市民団体が無邪気に信じて遺伝子組み換え食品の危険性を喧伝しているワケだ。未だ臆面もなく、彼女の研究成果を遺伝子組み換え食品の危険性を示す証拠として掲げている数多のサイトは何を考えているのだろうか。

こんな人に引っ掻き回されてかわいそうなのは誰か。貧乏な農家だね。得したのは誰だ?