マーガリンはプラスチックだって?

はてなキーワードの「トランス脂肪酸」が余りにもアレだったので色々知恵を貸して貰って編集したっていう。おかげで色々見られました。
トランス脂肪酸とは - はてなキーワード
元々はこんなん。
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クローン病、アレルギー、痴呆、動脈硬化、脳血管障害、ガン、糖尿病、精神病やその他の様々な疾患との関係が懸念されている。
この様な危険性を懸念する者から「狂った油」などの異称も与えられている。
また、化学的な構造がプラスチックに似ているとされ「食べるプラスチック」とも呼ばれる。

食べるプラスック?(゚∀゚ )
どうもフレッド・ローという「自然派運動で有名な人」が発信源らしい。
このフレッド・ローなる人物は1965〜1973年まで自然食品店を経営していて、常連客の食品工業技術者から「水素添加した脂肪分子はプラスチックそっくりである」とか「脂肪専門の化学者たちは水素添加を『オイルをプラスチック化する』と言う」などと聞いたそうです。
1965〜1973の間に聞いた話ということで、この頃にはまだトランス脂肪酸というものが存在することは知られていなかったのではないでしょうか。トランス脂肪酸が注目されたことで発掘され結び付いた説なんですかね。
502 Bad Gateway

「ケーリー博士のガン療法」「自然食事典」の著者でアメリカの自然派運動で>有名なフレッド・ローは、つぎのような記述を残している。1965年から73年まで数軒の自然食品店を経営していた私は、ある日サン・フランシスコの常連客と話をした。彼は食品工業の技術者で、水素添加した脂肪分子を顕微鏡で覗くと、プラスチックそっくりであること、脂肪専門の化学者たちは水素添加を「オイルをプラスチック化する」と言うことを説明してくれた。
その言葉に、私はちょっとした実験をやってみた。マーガリンの小さな塊を小さな皿にのせ、その皿を店の裏部屋の窓ぎわに置いたのだ。これがバターであれば蝿や蟻やカビがむらがるに違いない。
しかし、この塊は2年たってもそのままで、ほこりにまみれ汚くなっただけだった。私は実験をここで止めた。すでに私はマーガリンが「プラスチック食品」なのだという結論に達していたからだ。

2年放置したってスゴイね。

「フレッド・ローのマーガリン大実験」・「腐らないフライドポテト」・「常温保存のショートニング」。これらに共通するのは、トランスファットを含む油脂を使っているということです。

水素添加した油脂は、変質しにくく日持ちするという特性から多くの加工食品に使用されていますが、これは防腐剤の代わりのプラスチックコーティングであると言っては言い過ぎでしょうか。

いやいや、「腐らないからプラスチックだ!」ってそりゃないでしょ。
ちょっと前に腐らないハンバーガーが話題になったことがあったけど、それは結局水分が少ないから腐らないのでした。
半年腐らないハンバーガーは果たして保存料だらけなのか(タイトル変更しました) - 趣味:科学

食品に水分が飽和水蒸気量の9割“も”ある状態でも微生物は殆ど繁殖できず、カビに至っても7割が限界という事ですので、パンが速やかに乾燥してしまったのならば、カビる事も腐ることもなく保存されたのは(素人感覚には)信じがたいですが、科学的にはおかしく無いという事になります。

ということで信じがたい事ですが、別段特になにをする必要もなく、カビや細菌が繁殖する前に乾燥してればカビない腐らないという結論になるようです。(追記)これはハンバーガに限らず、放置されて乾燥した食品や、自由水が少ない食品(油脂類とか保存食)にも通用する考え方という事になります。

乾燥しているものは腐らないので、保存環境によっては大抵のものが腐らずに済むのでしょう。
コーヒーフレッシュも「腐らないから危険だ」と言われているのを見かけましたが、あれも主な原料が植物性油脂で水分の少ない食品です。フライドポテトも油で揚げてるから表面に油膜ができて水分を利用しにくいとかそういう理由じゃないのかな?マーガリンも油脂ですから簡単には腐らないでしょうね。2年も経ったら大分劣化してるでしょうから食べたいとは思いませんが。
こちらによるとやはり長期間放置された場合は分離などが起きるようです。
http://d.hatena.ne.jp/ohira-y/20090715/1247652511

20℃では、いずれの種類でも差が大きくあらわれ、特に通常タイプは2ヶ月目から油が遊離してくるなど変化が大きく、風味、色調、食感いずれも劣化が進みました。

 クリームタイプも2ヶ月目から、ハーフタイプは3ヶ月目から表面がやや黄色くなり、明るさがなくなりました。さらに、両タイプとも4ヶ月目から柔らかさが増してきて、7ヶ月を超えると油が遊離したり、油臭くなってきました。

 10℃ではどのタイプも色調が幾分か落ちてきますが、7ヶ月を超えると風味がなくなり、9ヶ月目からは油が遊離したり、油臭くなったりしてきました。

腐らなければ良いというものではありませんねえ。しかしこうなると、窓際に置いたマーガリンが「この塊は2年たってもそのままで、ほこりにまみれ汚くなっただけだった。」という記述は果たして本当なのかと疑いたくなります。寒ければ長持ちするんでしょうけど日差しがあると不利ですね。
さておき、マーガリンが腐らないからといって、トランス脂肪酸が「いわゆるプラスチック=合成樹脂」であるとは言えません。脂肪酸と合成樹脂の間には大きな隔たりがあります。
英語のplasticという語は形容詞で塑性を表すのでマーガリンもplasticと形容できますが、これは固形を維持したまま自由に形を変えられる性質を示すものに過ぎません。一般にプラスチックと呼ばれる合成樹脂(ポリエチレンなど)とトランス脂肪酸には大きな違いが有り、脂肪酸を水素添加によってその様な物質に変えることはできません。
ですから「オイルをプラスチック化する」というのは、融点が低く常温では液体の不飽和脂肪酸を扱い易くする為に、水素添加によって飽和脂肪酸に変えることで融点を上げ「塑性を与える=プラスチック化する」という意味ですね。
こちらを参考にさせて貰ったのですが、同じ脂肪酸でも液体だったり固体だったりするのは「分子間力」の違いなのだとか。
トランス脂肪酸はプラスチックに全く似てないよ (マーガリン=プラスチック説の否定) - 趣味:科学

飽和脂肪酸炭化水素がまっすぐ伸びているので、お互いの分子が綺麗に並びやすい形状になってます。ホームセンターなんかで売られてる様な木材みたいな感じで、綺麗にまとめることが出来るので接触面積も大きくなり、分子間力も強い物になります。
対して不飽和炭化水素は折れ曲がっているせいで綺麗に並べません。こっちは切り落としたばっかりの枝を想像してもらえると分かりやすいと思いますが、綺麗にまとめることが出来ないので、接触面積が小さくなる為に分子間力も弱い物になってしまうのです。

今回問題になってる脂肪酸は高級脂肪酸と呼ばれる物ですが、これは炭素数12〜程度の物を指します。で、大体生体に使われるのは炭素数22くらいまでの物です。プラスチックは一番単純なポリエチレンでも数百以上です。これじゃ分子間力なんて比較になりませんよね。

という事で、高々数十度の融点しかもたない脂肪酸と、少なくとも100度以上の融点を持つプラスチック。常温でも変形可能な塑性を持つ脂肪酸(油脂でも可)と、常温では変形不可能な熱可塑性をもつプラスチック。どちらも確かに塑性を持ちますが、質が全く違いますよね。結局これは分子の大きさに由来する差な訳です。

脂肪酸とプラスチックでは分子の規模が大きく違い、分子間力も比較になりません。他の性質も異なります。

最後になったけど、脂肪酸とプラスチックは末端のカルボキシル基の有無という差もあります。これ無視しちゃダメですからね。これがあるおかげで脂肪酸は体内に吸収されてエネルギーとなるのですから。

合成樹脂としてのプラスチックになる、というなら「カルボキシル基」もなくならないといけませんね。簡単にできることでは無さそうな気がしますがどうなんでしょう。
さて、もう一つプラスチック云々が出てくるサイトを見てみましょう。トランス脂肪酸を危険視するのは元々コレステロールを気にしていた人が多いのかも知れません。
「プラスチック化」された油脂=トランス脂肪酸

この不飽和脂肪酸は、血中コレステロール値を下げる作用があります。また、常温で液体なので、体内で血液をいわゆる「サラサラ」の状態に保ちます。

不飽和脂肪酸は常温で液体だから血液がサラサラになる」って、食べた油がそのまま血管の中を流れているんでしょうか。飽和脂肪酸ばかり摂取していても高脂血症でなければドロドロということはないと思うのですが。(大量に摂取しても吸収しきれないで排泄するでしょうし)

本来、動物性油脂にはトランス脂肪酸がわずかに含まれて、植物性油脂には含まれないのです。

植物性でも入ってますよ?

トランス脂肪酸は油脂類に最も多く含まれており、マーガリン、ファットスプレッドショートニングに特に含有量が多い製品があったほか、バター、植物油脂、動物油脂にも比較的多く含まれていました。

http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/t_kihon/content.html

脂肪酸の総量が多ければトランス脂肪酸も多くなります。

脂肪酸は細胞膜を構成する物質ですが、トランス脂肪酸で形成されるとその細胞膜は弱く、免疫機能が低下することも指摘されています。

トランス脂肪酸で形成されると細胞膜が弱い?免疫機能が低下する?何をどうするとそうなるんだ?
追記:細胞膜を構成する不飽和脂肪酸がトランス型に置き換わってしまった場合流動性が低くなるということが考えられ、動脈硬化の要因になるようです。

多くのファストフード店や惣菜のお店で水素添加された油脂は、ショートニングの表示で利用されています。 フライヤーの中に入ってしまえば、液体化するので、まさか固体の油脂が使われているなんて、と驚かれるかもしれませんね。

まるで固体じゃいけないみたいですね。血管の中で固まっちゃうと思ってるのかな?

水素添加マーガリンの害が最初に指摘されたのはドイツです。水素添加マーガリンの発売開始時期・地域と、クローン病(腸の慢性炎症疾患)患者の出現時期と地域が一致したことがきっかけでした。

時期・地域が一致しただけ?その後どうなったの?
他のサイトも少し見てみましたが、どうもトランス脂肪酸を危険視する話はこればっかり気にし過ぎのように見えます。良くあるのが飽和脂肪酸が血液をドロドロにするから良くない、トランス脂肪酸もそうだという話ですが、それならトランス脂肪酸より飽和脂肪酸の方を問題にするべきでしょう。トランス脂肪酸を多く含むというマーガリンやショートニングも、トランス脂肪酸は副生成物に過ぎずその主成分は飽和脂肪酸です。飽和脂肪酸を減らせばトランス脂肪酸の摂取量も減らすことができますし、トランス脂肪酸の割合が低くても飽和脂肪酸の摂取量が多かったら意味が無いハズです。
とはいってもトランス脂肪酸にリスクが無いワケではありません。
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トランス脂肪酸を多く摂取するとLDLコレステロール濃度を上昇させる作用が確認されており、飽和脂肪酸よりもその作用が強いという報告もあります。LDLコレステロールの変化は摂取脂肪酸のバランスと総量に影響されますが、トランス脂肪酸に関する実験を総括すると、摂取総エネルギーの概ね5%以上のトランス脂肪酸を摂ると影響が現われるとされています。

何をどのぐらい食べると「総エネルギーの概ね5%」に達するのかちょっと想像できませんが、農水省のリストが参考になるかもしれません。
食品中の脂質とトランス脂肪酸濃度:農林水産省
特に多いのはポップコーンとショートニングかな?ハヤシルウなんてのもありますがこれは溶かしますからねぇ。

トランス脂肪酸の摂取が乳癌などの発症リスク増加と関係があるとする疫学研究報告があります。しかし同様の研究で、有意差はないが増加したとする報告や有意差はないが減少したという報告もあります。
飽和脂肪酸やn-6系脂肪酸(リノール酸など)に関する疫学調査でも、同様に脂肪酸摂取により乳癌の発症リスクが増加したなどと報告されています。脂肪自体について過剰な摂取が乳癌や大腸癌の増加と関係があるとされていますが、偏った種類の脂肪の摂取は有害な作用をもたらす可能性があると考えられるので、摂取バランスが重要と言えます。トランス脂肪酸等に関しても、非常に偏った摂取をしない限り、乳癌等の心配はないと考えられます。

トランス脂肪酸に限らずバランス良く摂取した方が良い、というありふれたお話。

トランス脂肪酸で問題とされるコレステロール上昇作用や発癌リスクは、脂肪酸の摂取量と摂取バランスに関係するものです。コレステロール上昇作用は摂取総エネルギーの概ね5%以上のトランス脂肪酸を摂った場合に問題になるとされており、欧米やWHOの専門機関はトランス脂肪酸の摂取を総エネルギーの1%以下にするよう勧告していますが、日本人は平均で0.7%程度とされています。さらに日本では欧米と比較して、魚類などからの多価不飽和脂肪酸摂取が多く、逆に食肉等からの飽和脂肪酸摂取は少ないため、平均的な食生活をしていれば、トランス脂肪酸の影響は心配ないと考えられます。発癌リスクに関しても同様に考えられます。

酷い食生活をしてなければ影響なさそうですね。
ちなみにここでもプラスチックについて触れられています。

油脂には常温で液体のもの(なたね油・大豆油・米油・べに花油など)と常温で固形のもの(パーム油・ヤシ油・豚脂・乳脂など)があります。油脂の構造はグリセリンに3つの脂肪酸が結合しトリグリセリドと呼ばれています。脂肪酸は炭素原子と炭素原子の結合の仕方で様々な種類があり、グリセリンに結合する脂肪酸の種類や配置によってなたね油になったり大豆油になったりします。よって、常温で液体と固体の油は脂肪酸が違うだけで同じような構造であると言えます。
プラスチック(合成樹脂)の構造は油脂の構造と全く違い、エチレン・プロピレン・塩化ビニル等の重合によって構造されています。油脂にありますトリグリセリドはありません。

油には脂肪酸が有るけれどプラスチックには無い。そもそも別物、ですね。
全く違う性質のプラスチックはともかく、トランス脂肪酸とそうでないシス型の脂肪酸はちょっと分子のつながり方が違うだけです。そのちょっとした違いが有害かも知れないというのは生体の奥深さでしょうか。このちょっとした違いで匂いも変わります。

鏡像異性体は沸点や水への溶解度などほとんどの物理化学的特性や、 鏡像異性体を有しない化合物との反応性において全く同じ性質を示す。 しかし、鏡像異性体とは異なる相互作用をするため、その塊である人間にとっては別物である。 例えば(R)-リモネンはオレンジの皮などに含まれる芳香成分であるが、 (R)-リモネンはオレンジの匂いがするのに対し、(S)-リモネンはペパーミントの匂いがする。

http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/6575/co2/132.html

それだけ生物は複雑なんですね。例えば目の光を感知する仕組みにはシス型の物質が使われていて、これが光の刺激によってトランス型に変わることで情報を送っているのだとか。

ロドプシン は視細胞において光センサーとして働く分子で、オプシンと呼ばれる蛋白質に レチナール が結合したものです。簡単に言えば目において光を感知する分子です。そして視細胞内でのレチナールに含まれるある二重結合はシス型であることがわかっており、これが 光を感知する機能に重要 なのです。と言うのは、光刺激による11-シス-レチナールからオールトランスレチナールへの異性化で大きな構造変化を起こし、その構造変化をシグナルの始点として光の情報が脳に送られるからです。もしオプシン中のレチナールが安定なシス型だと光刺激を受けても構造変化しないでしょうし、もちろん飽和でも同じことです。あえて不安定なシス型の二重結合を用いることで、光刺激によってトランス型へと異性化する構造変化を巧みに利用 しているようです。ちなみにトランス型へ異性化したレチナールは暗所で酵素的にシス型へと戻されるそうです。

http://chemistry4410.seesaa.net/article/66348300.html

かように複雑な人体ですから、トランス脂肪酸の害というものが有っても不思議はありませんね。農水省にも色々と情報があります。
トランス脂肪酸の摂取と健康への影響:農林水産省
まぁでも、結局はこれでしょうか。

部分水素添加油脂に由来するトランス脂肪酸は、健康への便益が無いことが立証され、明確な健康リスクのある、工業的な食品添加物と見なすべきである。

特にこれといって益は無いというワケでして。減らせるなら減らすに越したことはないと。
後はこちらがちょっと気になりますが…

対照試験及び観察研究では、特に、例えばインスリン抵抗性が既にある、内臓脂肪症又は運動不足などの危険因子を抱える個人において、トランス脂肪酸インスリン抵抗性を悪化させる可能性が示唆されている。

何にせよトランス脂肪酸だけを避けることはできませんから、油・脂肪の取り過ぎに注意するという対応に変わりはないと思います。