ミニ氷河期

なんでもミニ氷河期だから温暖化どころか寒冷化だそうなんですけど。こちらの記事。

 【大紀元日本1月15日】英紙「デイリーメール」10日の報道によると、気候変動に関する政府間パネルIPCC)の重要メンバーであるドイツ・キール大学ライプニッツ研究所は、太平洋および大西洋の水温自然循環の分析により、「地球ミニ氷河期説」を発表したという。実際、コロラド州の米国家雪氷資料センターの数値によると、2007年より、北極は夏に海面氷結面積がすでに約106万平方キロ増加しており、増加率は26%にのぼったという。「地球ミニ氷河期説」は、北極が2013年の夏までに、完璧に融けてしまう「地球温暖化説」と1900年から始まった地球温暖化は人類が排出した温室効果ガスが原因であるとのこれまでの認識を覆した。

 ライプニッツ研究所・研究チームを率いるラティフ氏は、海洋の寒さと暖かさの循環の始まる所、即ち地表下914メートルのところの海水温度の測定を発案し成功したと2008年に発表、地球が寒い成り行きに変わることを予測し、2009年のIPCC会議で同説の主張を繰り返した。

 これに対して、米ウィスコンシン大学大気科学組織責任者ティサンニス氏は、「数十年振動」は世界各地で同時に発生したことによって、地球気候は「温暖化」から「寒冷化」に変化し、20〜30年後に再び逆転すると説明した。ティサンニス氏は、「数十年振動」は地球の気候を変え、20世紀と21世紀における地球気候変化の重大な要因の一つであるとラティフ氏に同調した。

てなわけで、IPCCの名前を出し、ラティフ・ティサンニス両氏の名前とコメントを載せ、いかにも科学的でございますという風ですが…
ソースはデイリーメールで大紀元を経てネタサイトが掲載。いかにも怪しげなニオイがプンプンしてますね。大紀元ちうたら反共組織の法輪功が運営してるメディアじゃないの。どんなプロパガンダかまされるかわかったもんじゃない。
しかしブクマをみると二酸化炭素を出して暖めなきゃ!」というような発言が多数見かけられる。
ネタですか?ネタですよね?ねぇ?orz
まぁブクマには「DMはタブロイドからしょーがない」というような人もちらほら居て、みんながみんな鬼の首取った様に騒いでいるワケでもないのですが。
この報道について詳しくはこちらが取り上げています。まずMojib Latifについて。

指導的な科学者が、自身の研究を、現在の寒い天気が人間起源の地球温暖化の科学的証拠を損なうものだという主張とに結びつけた、ミスリーディングな新聞報道を攻撃した

かなり激しい反発ですね。自分の主張と逆の報道をされたんだから当たり前だが。

Guardianに対してMojib Latifは次のように述べた「人々が地球温暖化を否定しようとして私の声明を使おうとしたことに驚いている。私は人間起源の地球温暖化が起きていると考えている。私は、『私の名前がMojib Latifでなければ、それは地球温暖化だろう』と言った。我々が気候に影響を与え、気候は我々による温室効果ガスの排出に対応して変動していることに対する疑いは科学界にはない」

まさにミスター温暖化。(って性別しらないけど)

"Mail on Sunday"の記事は英国をつつむ北極気象と、Latifの研究チームが2008年にNature誌に掲載した研究を結び付けようとした。その研究は「海洋温度の自然の変動が世界的な温度に予想されるより大きい影響を及ぼす可能性がある」というものだった。特に、その研究では「海洋の冷却により地球温暖化が相殺されて、2000〜2010年および2005〜2015年の平均気温は1994〜2004年の平均を超えない」と結論していた。その当時の科学者たちは、この研究が予測される長期的温暖化トレンドに疑問を呈するものではないと強調していたが、この研究は地球温暖化から地球寒冷化への転換を示すものだと広く誤って報道された。

15年までは04年以前並かそれ以下なんですか。その後については従来通りと念を押していたと。

"Mail on Sunday"の記事は「Latifの研究は現在の寒い天気は、冷涼な天気への向かう地球的トレンドを告げるものであることを示した。BBCはこの大寒波は短期的な気象であって、温暖化を続ける気候とは何の関係もないという見方を保証した。しかし、Latif教授たちの研究はこの見方を論破するものだ」と述べていた。

既にBBCで短期的現象と報じてたんですね。それを改めて否定するような内容が、それ単体で日本に入ってきちゃうと困った感じ。

それはLatifの主張とは合わない。Latifは「それらは何の関係もない。我々が現在経験しているのは気象現象であり、我々は今後10年の平均気温について話している。これらは対置できるものではない。海洋温度の影響は地球全体の気温に影響を及ぼす他の自然現象によるものと同様のものだ。たとえば、火山噴火は火山灰により大気圏に入り込む太陽光を反射することで一時的に惑星を冷却する。自然変動は人間起源の温暖化と並行して起きる。ときには冷却効果となり地球温暖化を相殺するが、時には加速する。」と述べた。

他の科学者たちは海洋による全地球の気温への影響の強さに疑問を持っており、地球温暖化が予測された一時停止を起こすことに同意していない。

自然現象について話をしているのであり、人為的な温暖化とは別枠。片方で増減があったとしてももう片方でずっと増やしてたら最終的には増える。今回は減少だから相殺されて停滞するけど両方増加になったら超増える。みたいな。

Latifは「私の研究は20世紀の気温上昇の最大限半分が海洋の自然変動の影響だと示唆するものだが、これはIPCCの2007年のレポートと矛盾しないものである。地球温暖化が100%温室効果ガス排出によるものだと言っている気候専門家などいない。」と述べた。

IPCCのレポートを否定していません。原因の半分が海洋の影響だろうと、温暖化自体は支持しているのです。つーか100%人間のせいとは誰も言ってないと。
最後に「今回の記事が私の研究を歪曲した初めての記事ではない。」なんて部分もありますが、デイリーメールは酷いらしい。
ローマ教皇キリスト教右派の聖書原理主義連中が大好きな反進化論と温暖化否定論であるように報道したり。*1

同じメディアなのにイギリスとアイルランドで逆の内容載せたり。

新聞を売るために、真逆のキャンペーンを行うDaily Mail紙。これらの記事は、同じ英語圏で、どこからでも読めるネット上にある。ネットで済ませる人々は新聞を買わず、新聞を買う人々はネットで記事を読まないと見きっているのだろうか。

新聞買わないネットユーザーにバレても痛くもかゆくもないってことですか。
温暖化に戻りましょう。もう一人の研究者Anastasios A. Tsonisについて。

ここで示唆した通り、動的に誘導される気候シフトが起きたとすれば、20世紀における同様のシフトの期間から、新たな全地球平均気温トレンドは数十年持続することが示唆される。もちろん、そのような期間にわたって現状のレベルで全地球平均気温がとどまるというのはまったくの憶測である。さらに、我々はここで記述した気候シフトが、人間によって推進されている長期温暖化トレンドに重ねあわされることに注意しておきたい。しかし、過去の気候状態におけるシフトの性質から、ほぼ一定な気温が10年以上にわたって続く可能性を考慮すべきである。2001〜2002年の温暖化の停止の背後にある至近の明らかな原因がないことは、気候システムに対する我々の理解、特に長期時間スケールのモードの内部気候変動性と、そのようなモードの地球温暖化への影響の物理的推論と因果関係について疑問を呈する。幸いにも、このような疑問に対して、気候科学は急速に発展しており、近い将来には、シームレスな気候予測システムの範囲内で、10年スケールの気候変動性の原因と影響を特定することが可能になるだろう[Palmer et al. 2008]。また、そうすることが不可欠である。全地球平均気温の安定的な上昇のエンベロープの範囲外にある内部気候変化による、全地球平均気温の将来の変化のスペクトルの温暖側と寒冷側の両端で思いがけないことになるかもしれないからだ。

あくまで推測だが「気候シフト」が起きたなら、過去の状況に照らして数十年気温が一定する可能性が高い、と。しかしそれはあくまで短期間のものであり、長期的な気候変動の一部に重なる形で現れるもの。2001〜2002年の原因のわからない「温暖化の停止」については将来メカニズムが解明されると期待。また、そうしなければ温暖であれ寒冷であれ思いがけない事態に直面する可能性もあることから、解明されるべき、という感じ。

最後に、至近に地球温暖化が停止するとしても、大きな内部変動が気候にあることによって、何ら安心できるわけではない。気候が大きな内部変動性を持つことは、人間起源の放射性アノマリにも非常に敏感だということになるからだ[cf. Roe 2009]。もし、気候システムの内部変動性の役割が本研究も示唆する程度の大きさを持っているなら、内部変動性を過小評価している現行世代の気候モデル [Kravtsov and Spannagle 2008]が予測するよりも、21世紀の温暖化は大きくなることが示唆される。

短期的に気候変動が起きるということは、起きない場合に比べて人間の及ぼす影響がもっと大きく油断ができないということでもある。ちっとも喜んではいけないですね。

*1:まぁあの世界最強クラスの御仁を味方につけたいのはわからんでもないがw