mF247っていうかすごいじじい

EPICソニー・SMEを作り上げ、業界の頂点にいながら敢えてそれを手放し、沖縄から音楽業界を変えようとしている。それがmF247のボス、丸山茂雄氏。
この人、基本的にアーティストよりでありながら経営者の視点も備えている。こうした創作的な業界で経営ばかり考えていると先が見えなくなって自分の首を絞めることもわかる。
その上で柔軟に考えて利用できるものは利用し、まずシステムを作り上げることに主眼を置いて、ネットの時代に対応しうるもの、個人が良いものを発信していく方法を模索している。若い。なんて若いじじいなんだ。かっこいいぞ。
というわけでインタビュー記事。面白いと思う部分を抜き出したら半分以上になっちゃったかも。

丸山さんが個人でやらねばならないことなのでしょうか。意地の悪い聞き方ですが、それならSMEを辞めなければよかった、会社ならもっと大仕掛けでやれた、とか思いませんか。

どうかな。新しい音楽を世に問う試みは、今までだったら企業がスポンサーとしてやっていたけれども、四半期ごとに成績を追求される風潮の中で、企業がスポンサーになり得なくなってきている。

卵が先かニワトリが先かという話なんだけど、世に問うて売れた途端に、その個人が権利主張を昔より激しくするようになった。なので、企業としても悠長にお金をかけても、その後でリターンが取れなくなってきている。ばかばかしくて、あまり面倒を見る気がしなくなっているのも、きつい話だけど事実なのね。

 だったら緩やかな仕組みだけ作ってあげるから、最初から自己責任でやれるヤツは出てこいと。自分でスタートするんだったら、その後にリターンも大きいよ、という話です。メジャーでやるならもちろんメリットもあるけど、取り分は減る。

 どっちを取るかということを個々のミュージシャンに対して突きつけている。こういう時代なんだから、個人の自立という気分をきちんと持っていないとダメだという面もあるね。

売れた場合も、彼がインディーズで自分でCDを出しているならば、その権利をこちらがもらうわけじゃない。彼らは自分で自分に投資しているわけだから、それを横から「権利をよこせ」というのは下品すぎるだろうと思ってる。

 役割としては、おじいちゃんでいたいなと思っているわけね。若い者たちは勝手にどんどんやりなさい。何かあれば俺が相談に乗るよ、と。

最初の計画では、本当はもうちょっと上前をはねようと思っていたんだけどね。『だれが「音楽」を殺すのか?』を書いた津田大介さんと話しているうちに、どうも上前をはねるというのは、インターネットの世界では、受けないなと。嫌われそうだと思ったわけ。

稼げないから、これはサービスじゃなくてメディアだと言い出したわけ。

 日曜日ごとに友達と演奏しているだけでいい、という人もいるでしょう。ですが、mF247でターゲットにしたいのは、売れる、売れないとは別に「音楽で飯を食いたい」という人。

 プロになるという明確な意志を持っている人だったらいいんですよ。そこを見分けるために、1万円の登録料を設定している。

 ただ、誤解されたくないのは、これは審査料じゃないからね。審査を通ったら、あとは登録料を払っていただければ、mF247をメディアとして使えますよ、ということ。

 登録前にお金をもらう、すなわち審査料を取る仕組みだったら、それはすごく儲かるよ。でも、そういうビジネスを知っているだけに、それに近いことはしたくない。

7年くらい前から、俺はメジャーのレコード会社は、だんだんに解体するだろうと思ってたんです。多分、今度の我々のシステムがうまくいったら、ラストは、「ワンアーティスト、ワンレーベル」という形に限りなく近づく。

CDがメインのうちはCD。旬の過ぎたアーティストはユーザーと年齢が離れるからCDはあまり売れなくなってくる。でも、音楽は基本的にライブで稼げる。

 音楽で稼ぐのは一緒なんだけど、アーティストの一生は、CDがメインの時期とそうじゃない時期とに分かれるわけですよ。

メジャーレコード会社や大手出版社というのは、社員をたくさん抱えちゃっているから、何冊かに1冊はベストセラーが出ないと会社が成立しない。「今は少数の読者しかいないけど、何年か後には世の中から注目されるミュージシャンや作家を育てていくんだ」という思いと機能が薄れてきている。つまり、ベストセラーを今日現在の可能性の中から生んでいこうとしている。

昔は先の分までやれていたんだよね、活字も音楽も。今は将来のものに対する投資ではなくて、現在のものばかりをやるから、対象となる音楽や活字がものすごく狭い、同質のものになっている。

本当はできたんだよな。できていたのにできなくなったのは、最近の上場ブームと、企業は株主のものという社会的風潮が関係しているかもしれない。企業というのは利益を出すためのもので、株主に配当をきちんと行うことが目的であるという考え方ね。

 レコード会社とか出版社の人たちは、本来、そういう風潮とは縁が遠い。だって株式公開している会社が少ないんだから。だけど、親会社の意向とか、世の中の風潮に押されて、利益を上げなきゃまずいと思うわけだ。

 本来自分たちの持っていた考え方が古いのではないかと疑って、きちんと毎期、毎年、最大利益を上げることが正義であると思っちゃう。それで、企画会議の時に、「これをやっておけば3年後に利益が出るから、今やりましょうよ」という声がかき消されるんだね。

会社は株主のものだなんて、ほんとは今でもまだ決まっていないと思うよ。でもそういう社会的風潮は強い。だから株主に最大の利益を出すようにという考え方が、公開していない会社の経営陣にも影響を与えている。1995年ぐらいから、日本はそういう方向に大きく舵を切っていると思うんだよね。その隙間をインターネットで埋めることができるのではないか、というのが俺の考えていることでね。

映像の分野ではゲームをやっている方の連中から、こういう自主制作の世界へ流れ始めると思うよ。ゲームってほら、膨大なチームでやるでしょう。だから自分の名前は出ないよね。せっかく映像はいいのに、ゲーム全体が弱いとかがあるとすれば、こんな人みたいに、世の中に出た方がいいや、と思う人は多いはず。音楽の方が一段落したら、ゲーム業界の中で、腐ってる連中を引きずり出したいなと思っているんだよ、実はね。

俺はミステリーが好きなんだけど「今年は忙しくて読んでいないな」と思った時に、例えば「週刊文春」の「今年のミステリー50冊」みたいな企画があるじゃない。何だかんだと言いながらやっぱり当てにして、そのページをびりびりと破ってポケットに入れて本屋に行って、その中から1冊選んだりするのね。

 それじゃ本当に面白いものは見つからない、という人もいるけど、知らないよ、俺はそれしか方法がないんだから。

興味分野を深掘りするときはネットはものすごく便利だけど、興味を広げようとすると難しかったりしますね。本で言うと、アマゾンでは「類は友を呼ぶ」タイプのお薦めしか出てこない。自分の興味の分野から出ることができない。

ましてや音楽はね。「あなたが前に気に入った曲は1分間に130のビートだから、あなたはきっとこれも気に入りますよ」と、同じ130のビートの曲をだーっとリストアップされても、ちょっと違う。

俺がうらやましいなと思うような毎日を送っている人が薦めている本なら「この手のジャンルは買ったことはないけれど、読んでみるか」となっちゃう。

面白いところ、というより、ネットの肝は実はそこでしょう。

お会いしたらぜひ聞こう、と思っていたことがありまして。それは、どうして丸山さんが…今年おいくつでしたっけ。

64歳だよ。

言っては失礼ですが、いいおトシですよね。なのに、mF247のアイデアや、ネットでは「儲け」志向ではダメだと、どんどん柔軟に姿勢を変えるところが不思議だ。

俺は33歳でプロデューサーになったけど、下積みからやった人たちに仕事が回っちゃうわけよ。遅咲きの新入りのところには仕事は来ないよね。

 どうしたものかなと思っていたら、吉田拓郎とか、あの辺の新しいジャンルのミュージシャンたちが出てきて、この人たちの周りには誰もいないわけだよ。これまでの関係がないから。

 そこで、その人たちとの仕事を集中的にやって、その時に「やっぱり若いヤツと仕事をしていないと商売にならない」というのを覚えた。だから僕はあまり年上の方に知り合いがいないんですよ。

既存の仕組みを作り上げた人が、それを「壊す」立場に今いるわけですね。

俺が沖縄に行く直前まで、まだ日本の音楽のプロモーションの仕方というのは、旧来型のものが残っていたのね。FM局で番組を持つパーソナリティが、自分の好みの音楽を紹介して、リスナーに新しい曲に出合う機会を与えていた。それが沖縄に住んだ間の1〜2年でガラガラと崩れちゃった。レコード会社のプロモーションの場になってしまって、売れ筋の曲とトークばかりになっているよね。

最後にちょっと余談を。スティーブ・ジョブズ(米アップルコンピュータCEO)自身は、音楽が好きでiTunesiPodを世に出したのかどうか、個人的にちょっと気になっているんです。どうでもいいことかもしれませんが、丸山さんはどう見てます?

音楽の振興のためなんて思ってないよね。彼も20年前は若者だったわけだから、20年前の、普通の音楽好きな少年が、そのまま大人になった感じ。いい音楽を世の中に出すことよりも、コンピューターやネットワークそのものに興味があるんだと思うよ。

 基本的にはプレステ(プレイステーション)を作った久多良木(健、SCE社長兼グループCEO)君と一緒なんじゃないかな。久多良木は音楽が好きかと言ったら好き。だけどミュージシャンを何とかしてやりたいとか、ゲームのソフトを作っている連中を育てたいということより、もっといろいろなことのできるゲームマシンを作る方に気分が行っている。そのあたりが似ていると思う。

でも、ジョブズの立ち居振る舞いは久多良木さんよりうまいですよね。発表会に行くとみんなファンになって帰ってくる。

もうね、いいかげんにしろというぐらいうまいよ。あのキャラにみんなだまされるんだよ。ジョブズが(2005年)8月に東京へイベントに来た時、米国のレコード会社の人たちが言うの。日本のレコード会社の社長には、ジョブズに「ぜひ会ってくれ」、じゃなくて、「頼むから会わないでくれ」って。

彼らが言うには、音楽産業の人で、ジョブズと会った後、彼の悪口を言った人はただの1人もいない。彼の前だとすぐにイエスと言っちゃうんだって(笑)。

 米国では来年、アップルとメジャーレーベルの最初の契約が切れて、次の契約交渉がもう始まっている。日本はiTMSの開始が遅れたから、次の契約の端境期にあるわけ。日本の条件もある種のプレ交渉みたいなものだから、「日本のレコード会社は強硬だ」というイメージでやってほしいと米国のメジャーは思っている。

 だから日本のレコード会社の偉い人が今ジョブズと会って、「分かった、今の米国のメジャーと同じ条件でいいよ」と言うと、米国のメジャーレコード会社はみんな困るんじゃないかな。それがあるから「日本でうかつなことを言わせるな」じゃないのかな。「会うとYESと言っちゃうから会わないでくれ」。最高だよね。