銃の話

こんなのがあってですね。

屍姫みたいな原作つきのアニメを、アニメ制作側が勝手に改編する権利は無いだろう。だから原作者を否定するのは構わないがアニメ制作側を否定するのはおかしい。

勿論ガンスリで幼女が銃を使っていておかしいと感じた所で、設定を変えたらガンスリンガーウーマンの出来上がりじゃないですか。だからやっぱり否定するのはちょっとおかしい。

そもそもアニメ版ガンスリは銃がメインじゃなくて、少女の細かい心理描写が中心だと思う。俺がアニメ版ガンスリの心理描写は素晴らしいと思っている一方で、銃について否定して、その後フォローもせずに放置放置放置。そんなものガンスリファン(アニメ版)として許せん。

何に怒ってるのかというとこれ。

 指の中節がトリガーにかかっている。

 これは、よほど変な握り方をするか指が長いかでないと不可能だし、もちろん間違っている。

 こうした例は昨年アニメ化された屍姫のポスター(一巻表紙絵)でも見られた。

 上述の指の間違った指のかけ方にしてもそうだが、銃の基本操作を図・写真つきで基礎から紹介している資料が極めて少ないことがこうした間違いの普及を助長しているのではないだろうか。

 銃の外見、歴史、用語、評価についての日本語資料はあっても、操作の際に人体と銃がどのような位置関係にあるのが正しいのか解説している資料は洋書かビデオが中心になっている。

 このため、銃の大きさと人間の大きさの比率がおかしくない絵でも、手とトリガー、グリップの関係にまで気が回っていないものが多い。

 手が大きくなければトリガーやセイフティ等に指をかけにくい銃というのも存在するのだが、そうした銃を手の小さなキャラクターが問題なく使っているというのがよく見られる。

 ガンスリンガーガールなどはこの典型と言えるだろう。

 筋力の問題ではなく物理的に届かない指で銃をどう操作するというのだ?

一見して無粋なツッコミと感じる人もいるかも知れないけど、この人は「だからこの作品はダメ」とは一言も言っていないのだ。「製作者の観察力・知識の程度をはかることができる」とはあるが。
要は分析して「何がわかっていないか」あるいは「何が無視されているか」を読み取ってみせたに過ぎない。そのついでに正しい銃器の扱いを解説している。
こういう言及をする為には対象を良く観察していなければならないが、わざわざそんなことをする人というのは大抵が好きでやっている人である。この場合銃とアニメどっちが好きなのかが問題になるかも知れないが、他の記事からわかるのはオタク的なものが好きだということだ。
つまり両方好きだからわざわざ突っ込んでるんですよ。こういう楽しみ方をする人は多い。と学会なんかもわざわざトンデモ本を探して買ってきてツッコミを入れるが、トンデモ批判の権威として持ち上げられるのは心外だという。と学会はトンデモ本を愛している人の集団なので。
フィクションの細かい設定に突っ込む楽しみというのも、難癖をつけることにあるのではない。フィクションというのは「いかに上手くウソをついてみせるか」という部分がある。そのウソの上手さを評価する為には、どこがウソなのかを理解できるだけの知識が必要になる。知識のある人は、知識の無い人が気付かないような作り手の創意工夫に気付くことができる。そして、知識のある作り手が上手いウソをついていた時、それに気付いた知識のある人はきっとこう賞賛する。
「わかってるなぁ!」
オタクというのはそうやって楽しむ為に余計な知識を動員する傾向が強い生き物だと思うのだが、どうもそうじゃない人が反発してるみたいでなんというか・・・違う楽しみ方を知らないとショックな見方なんだろうか。ツッコミながら見るというのは。
まぁこの辺にして次。

 銃に関する間違いと言うと、しばしば映画やドラマの間違いというのが例に挙げられる。

 アメリカの銃・装備・兵器の雑誌Tactical WeaponsにはBad Hollywoodという映画の間違いを指摘する連載記事まであるほどだ。

 映画から広まった間違いは、アニメや漫画にも影響を与えている。

バッドハリウッドなんてあるのかw

 映画やテレビの影響というのは凄いもので、映画に登場した銃や武器の類はたちまち真似をする人間が出てくる。

 「ダーティーハリー」上映後、44マグナムリボルバーのS&W M29を持ち歩く警察官が登場したように。

 だから、「映画の真似をするバカ」という意味合いで横に銃を持つ人間を描くことも現在では可能になった。

 実際、木多康昭の『喧嘩商売』ではそうしたバカとして横に持つ人物を描写していた。

現実の逆輸入で「横にしている=銃の知識が無い」という記号が成立しているわけね。

 マガジンというのは結構重く、かさばるもので、小さな銃のものでない限り隠し持つのは厄介だ。

 よくある拳銃のマガジンは、スニッカーズより場所を取ると思っていい。

たまに上着裏がポケットだらけで全部マガジン入ってるっていうようなキャラクターがいるけど、防弾効果あるかな?火薬に当たったら圧縮して爆発するかw

 銃弾は人体に穴を開け、損傷させることはできるが、人体を大きく動かすことはできない。

 もし人体を動かすエネルギーがあるなら、防弾チョッキを着た人間も撃たれて後ろに吹き飛ぶことになっているだろうし、銃を撃つ人間も後ろに吹き飛ぶくらいの反作用を受けていることになる。

これは「怪しい伝説(MYTH BUSTERS)」で実験してたなぁ。ライフルで撃ってもびくともしないダミー人形。質量が小さくてエネルギーはほとんど速度として使われてるから、当たった部分を破壊するには十分でも身体全体を動かすには小さすぎる。
あと命中精度の話とか。
フィクションだとありえないような狙撃とかしちゃうけど、拳銃は当たらないです。

狙って撃っても当たらない上に、チンピラなんかが人を撃つのに慣れてなくってわざと狙いを外したりすると、その流れ弾で死ぬ人ってのが問題になるらしい。拳銃持ってる人のそばには寄りたくないなぁ。
こっちは長距離狙撃。

 CheyTac社のInterventionを紹介した回だというので、そちらも見た。2530ヤード(2313m)の距離でマンターゲットに6 発中3発当てている。確かにあの銃は特別で、当エントリの最初の私の指摘は間違いだった(あわせて最初の追記は指摘としては全く関係ない話だということになる。このエントリの半分は意味がない)

 同社の公式情報では 2100ヤード(1920m)で19インチ(48.3cm)、2400ヤード(2195m)で29inch (73.7cm)のばらつきがあることが報告されている。こうした突出した数値は、銃そのものの性能に加え、照準サポートシステムやソフトウェアも含めたパッケージが優れていることを意味している。なお、CheyTacのこの狙撃システムはあくまでソフトターゲット=対人狙撃を目的としており、 CheyTac Interventionはアンチマテリアルライフルではないことを間違えた言い訳としておく。

フューチャーウェポンはゴルゴ並みw
フューチャーなウェポンだったらこれも負けてないw

YouTubeのデモ動画と写真が公開されている。動画であまり迫力のない動きを見ることができるぞ。


バカだwwwwww

刃物の話

ダガー規制とか話題になりましたけど、大体ダガーって何?定義は?

 現代では一般に両刃のナイフのうち、左右対称のデザインのものがダガーだとみなされる。

 しかし歴史的には片刃のダガーというのはしばしば存在している。

 ダガーの古い辞書的な意味は「刺突のための鋭い切先をもつナイフ」となっており、要するに刺すためのナイフは全てダガーと呼ばれてもおかしくないわけだ。

ウィザードリィなんか「短刀」って訳しちゃってたけど、使い道としてはそんなに外れてないのかも。
新紀元社の本をどの程度信用していいか微妙だけど、あそこの本ではダキア地方というところで使われていた刀剣が語源で、似たような刃物がダガーと呼ばれるようになったと解説されていた。

 さて、これまで両刃かそうでないかについて説明してきたが、そもそも「両刃」とは何だろうか。

このBoker社のフォールディングナイフを一見してダガーだと認識する人が多いはずだ。

 しかし実は切れる刃(小刃。エッジ)がつけられているのは片側だけだ。

 左右均等に削られ(グラインドされ)ているが、片側しか切れるように(エッジ付け)されていない。

 では、このナイフはダガーとして規制されるのだろうか。

微妙すぎる。きっちりしなさい!(AA略

 実際にはそうした曖昧な部分は法律に明記されることはなく、今後の取締りや裁判で明らかになるか、あるいは過去の判例から予想するしかないのである。

 しかも日本では波刃・鋸刃は規制される刃とみなされない規制だったため、そうした部分も含めて今後の規制内容が具体的にどうなのかが余計分かりにくくなっている。

 そう言えばチタンナイフの両刃は規制対象外だったが、あれも今後どうなるのか分からない。

 つまり、法的な「ダガーの規制」では、こうした要素が絡んでダガーと呼ばれても規制されないもの、ダガーと呼ばれないのに規制されるものが出てくるのである。

 商品名称、一般的な概念、法規制の対象にはそれぞれ若干のずれがあり、それが規制を気にする製造者や愛好者の頭を悩ませることになっている。

面倒くさすぎる。刃の部分だけで判断できそうなもんだが、見た目が紛らわしいとか言って問題にされそうだなぁ。
こちらは変なナイフ。

画像はリンク開いてね。

 こうした特異な握りを想定したナイフは第一次世界大戦塹壕戦でも使われている。

 イギリス軍が使用したナックルナイフが有名だ。

 こうしたナイフをリバースエッジ・ナイフなどと呼ぶ。

 現代では小型のリバースエッジ・ナイフを専門に扱うナイフ格闘、護身術が存在しており、対応したファクトリーナイフやカスタムナイフも何種類か存在している。

日本軍にも似たようなものがあったとか忍者も使ったとかなんとか・・・そんな話もあったっけ。背後から首を切るのに向いてるなんていう。
こっちは握りについての話。

 長い刀剣であれば、ある程度ブレずに加速させれば、その長さと重さで相手を殺傷する速度・力に達する。

 ところが短く軽い刃物では、切先の加速も重さによる切断力も生じにくい。

 逆手で握ることで攻撃に十分な力を乗せやすくなる。

アイスピックみたいにガシガシできるし親指乗っけてもOK。
昔順手は防御的って解説を見たことがあったなぁ。そういうのはマンゴーシュを想定してるのかな?(両手にそれぞれ長剣と短剣を持って短剣を防御に使う流儀があって、防御用の短剣をマンゴーシュって言うらしい。)
「逆に長い刀剣を逆手に持つメリットは極めて少ない。刀剣を常時逆手に使うような技法や流派は実在しないはずである。」という注釈があるんだけど、ウィザードリィのマスターニンジャは長いのを逆手だったなぁ。末見さんは武具集める趣味があるような人なのになぁ。見栄え優先したのかな。
コミック版だとすさまじい跳躍力ですれ違いざまに斬りつけてるからアレで良いのだが。実にファンタジーですな。

 さて、想像してほしい。ナイフを持って構えている時、防御や捌きを行おうとしたら、順手持ちと逆手持ち、どちらがやりやすいだろうか。

 順手に持っていると、腕を畳む動作が制限されるのである(下手をすると自分を刺す)。

なるほど。自分が危ないのね。

 セイバーグリップは、よりナイフの角度を前腕の角度に近づけ、指突や斬撃に利するためにある。

 また、刃にかかる抵抗を親指が受け止める役割も果たす。

 ハンマーグリップは手首の動きを制限せず、最も早い斬撃が可能となる。

 どちらかというと大型ナイフで用いられる。

 順手でも、手首の角度を逆手と同様に曲げないようにして至近距離で下方(腹部など)を突く場合は力を入れることができる。

 分かりやすく言えば、ヤクザが腰だめにドス持って突っ込んでくるのもこれと同じだ。

ヤクザといえば短刀につばが無いので自分の手を切らないように小指引っ掛けるって本当なんだろか。それとセットでだから落とし前として小指落とすってまことしやかに語られるわけですが。
握り、小指といえば日本刀。居合い切りで小指締めないと、刀が止まらなくて自分の足切っちゃうって話。ゴルフも小指って言いますがあれは逆に振りやすくする為?

銃を握る場合(特に片手で持つ場合)、銃の中心を通る線と前腕の中心を通る線が一直線になるように持つ。

に対応すると思われる部分。

若干背屈(手の甲側に曲げる)気味ですね。こんな所まで見る奴がいるのか、と言われそうですけど、多分、剣を使う人は、普通に見ます。

雑巾絞るみたいに握ると真っ直ぐ持てるらしい。

まあ、ポイントとしては、小指と薬指で締め、人差し指はふわっとさせる、という所。(余談。剣を打ち込む局面で、手がベタ掴みのような形になる場合はありますけど、それはまた、別のお話。基本の持ち方の文脈です)

この辺はテニスとか棒状の部分を握って振る動作に共通するものらしい。

テニスのシャラポワ選手や、野球の松井秀喜選手は、手にマメが無いそうです(シャラポワ選手は、インタビューした方の証言。松井選手は、ご本人の証言)。

手にマメが無いという事は、力を抜いて、グリップに手の平を馴染ませる様に握っている、という事を意味しています。特に松井選手は、はっきりと、力を抜いて握る、と仰っていました。

手と道具を密着させ、手から道具が離れない分だけの、ギリギリの筋収縮を行っているのだと考えられます。道具を「握り締める」事は、力学的にも、生理学的にも、とても不合理です。道具を支える最小限より大きい力を加える事は、力学的に無駄ですし、余分な筋収縮の為にエネルギーを消費する事にもなります。又、手を強く握り込むと、手首や肘の自由な運動を阻害します。それは延いては、道具の合理的な運動を阻害する事にもなります。武術の達人の教えに、「力はあっても良いが使ってはならない。」というものがありますが、これは、上の様な不合理な身体の使い方を戒めているのでしょう。

無駄の無い動作は身体に負担をかけない。達人は疲れにくいんですねぇ。
戦時中は刀を誤った握りで力任せに振った為、柄が折れたそうです。

柄の握り方は、鍔の傍を右手で握り左手は大きく離れて柄頭(兜金)の近くを握る。之を常識と思っていた。
師が先ず言われた事は、柄の持ち方を皆さんが間違えている。
これでは刃筋は通らず、刀は曲がったり折れたり、 斬れ味も悪く、敵に致命傷を与える事は出来ない。
時代劇に観るような柄の持ち方は間違いであって、これでは絶対に物(人)は斬れないと断言された。
師は、鍔の傍を右手で握り、左手は右手から指一つを置いた処で握るものだと言われる。
ここで思い当たる節がある。騎馬戦では太刀は片手で操った。両手握りの徒歩戦に移行した時、刀は既に主武器ではなくなっていたし、実戦で使う刀は消耗品と考えられていたから、柄の損傷は当時は大きな問題とはならなかったのかも知れない。
それとも古えの武士達は師と同じ握り方だったのだろうか。
軍刀柄の破損の原因の一つは、この柄の握り方にも起因している様に思える。 
人を斬る時、目釘を支点として、茎尻には下向に大きな応力が掛かる。柄頭を握った左手がこの茎尻の応力に逆らって柄頭を上に向ける理屈になる。茎と柄の作用・反作用の大きな力学上の相剋が、朴の木の柄の中で生じることになる。 
師の言われる握り方だと、左右の手はほぼ目釘の位置で握られる事になり、柄には茎尻の応力に逆らう力が殆ど生じない。
目釘や柄の破損の理由の一つはこの柄の握り方にもあると思われる。

刀身と一体になった茎(なかご)は柄頭まで届いていないので、そこを握ると変な力がかかっちゃうんですね。中身の有る所を持てばそういうことは防げると。
他にも戦時中の刀についての話が続きます。

将校軍刀の意義をお尋ねする為に、先ず昭和12年の「百人斬り競争」の件をお尋ねしたら「副官と歩兵砲だろう。あり得ない」との明快なお答えだった。

これに関して人を斬った血刀の処置をお尋ねした。
刀に付着した血脂はすぐに白くなり、時間が経つと固形化し、そうなると血脂は絶対取れなくなるとの事。
従って人を斬ったらなるべく早く手入れをしなければならず、布で拭った位では駄目である。砥石をかけるのが一番だが、砥石を戦場で持ち歩く訳にはいかないから最低打ち粉と拭い紙の手入れ道具は必要である。人を斬ったら必ず手入れが不可欠で、これは常識とのお答えだった。

因みに、血刀をその儘にして置くと、一晩で真っ赤な錆を生じる。
刃部は最も錆に弱い部分で、血脂の固着と共に数日で刀は使い物にならなくなる事が実証されている。
生半可な刀身の手入れでは、その刀身を何日も掛けて連続使用するという事は斬れ味からしても大変難しいという事になる。

「百人斬り」なんて信じるのは刀を知らない人ということで。槍使ったほうが良いよん。

古岡大尉の軍刀に関心があって、佩用軍刀をお尋ねした。
「満鉄刀を使っていました」とのお答えに少し意表を突かれた思いであった。
私は常日頃「日本刀」とは何であろうかと自問自答している。刀剣界では古式鍛錬法(と云っても新刀以降の事) で作られた和鋼以外の刀剣は蔑視され、日本刀とは認めていない。武器性能としても全く劣る物と流布されている。意表を突かれたという事は無意識にもそういう考えが心の奥底を蝕んでいた事になる。大変失礼乍ら、思わず「性能は如何でしたか」と、我ながら愚問を発っして仕舞った。 「切れ味が良く、大変良い刀でした」とのお答えであった。

戦時中の軍刀なんて評判悪いものだと思ってたけど、満鉄刀ってすごいらしい。

 満鉄が、満洲産富鉄鉱を原料として純鉄製造に挑戦したのは満鉄刀や鉄道製品を造るという狭い目的の為では無い。
 資源の無い日本は、満洲に自活の路を求めた。その国策実行は満鉄に委ねられた。
 満鉄が単なる鉄道会社でない事は、満鉄に科せられた使命からも明らかである。「純鉄」の開発はその一環であった。
 当時の重要且つ花形産業の満鉄、炭坑にはエリート技術者が多数結集していた。
 純度が高いと言われた「スゥェーデン鋼」、「和鋼=玉鋼」を技術者は当然意識していたと思われる。
 スゥェーデン鋼は砲兵工廠でサーベル刀身や村田刀に、玉鋼は日本刀に使われた。
 技術者が、自ら開発した満洲産「純鉄」の一つの検証に日本刀を思いついたことは自然の帰結であった。
 世の中は、刀剣界の偏向した「日本刀神話」を古来からの日本刀と疑念もなく信じていたので、試作刀は新々刀の鍛法で造られた。
 試作された日本刀は「古刀と間違えられる様な出来で、専門家も肥前の忠吉と誤って鑑定した」という立派な物であった。
 この結果を受けて、非効率な手作り日本刀の様々な短所を改善する為、鋼材や工業的造刀法の研究開発に踏み切った。
 如何にも技術集団らしい発想と言える。この発想の根底には、既に確立されていた鉄道製品の製造技術があった事は間違いない。

満洲鉄道株式会社、略して満鉄が当時の技術を結集して作ったのが満鉄刀。

 鍛錬法は日下氏考案の鋼材を用ひ側金に適當なる炭素を含有する炭素鋼を心金には低炭素鋼を使用して鐵道工場獨特の「モロ包み」式鍛錬法により鍛錬を爲し「モロ包み」式の特徴は心金が刀身の内部に規則正しく入って居る事が特徴であって古來の日本刀は中々心金が規則正しく入って居るのがまれであります。

車輪はホイールとタイヤから構成される複合部品である。レールに接するタイヤ(外輪)には耐磨耗性の硬鋼を、車軸を挿入するホイールには衝撃緩衝材に軟鋼を使うという複合構造となっている。車軸、軸受けなども同様である。軟鋼を硬鋼で包むこの製造法を「鉄道工場独特のモロ包み式鍛錬」と表現したのは頷ける。既に完全に確立されていた部品製造の技術を日本刀作刀に応用した。

なるほど。満鉄が刀を作るのは理に適っていたんですね。

従来は刀匠の長い経験と勘に頼っていた焼入れを、近代的科学の力を利用して、温度を自由に制御する加熱炉で思い通りの硬度を実現している。然も、その設定基準は名刀と目される刀である。
水心子正秀の新々刀は最も刀身が硬い。興亜一心刀が古刀のように「しなやか」という成瀬関次氏の評価はこの硬度表からも裏付けられた。

興亞一心刀の成分を俵工学博士掲載の29例の日本刀成分表と比較すると、満俺(マンガンの含有率が若干高い外は29例の
 著名日本刀(村正・廣光・兼房・祐定・了戒・康光・兼信・・・他) の数値の中に入っている。Mn(マンガン)は鋼に強靱性を与へ、焼入れ性を増し、Si(ケイ素)は硬さ・引張り強度(粘硬性)を増す元素である。満鐵刀の強靱性、粘硬性を支える要素の一つと思われる。
 満鐵刀の強度試験(後述)で、新々刀の加州物は1噸7分で刃切れを生じたが、満鐵刀は4噸7分の加重まで刃切れは生じなかった。
 鉄鉱石は満洲と北支那、砂鉄は日本を指す。満洲産鉄鉱石の純鉄率は二ヶ所が郡を抜いて高い。純鉄比率の悪い産地が三ヶ所あったが、チタン含有量は何れも一個所の微量を除き皆無であった。
 日本各地の砂鉄のチタン含有率はいずれも極めて高い。純鉄比率は青森(45.09%)と岩手県(51.78%)が悪い。
 この成分表を見る限り、砂鉄から出来る和鋼=玉鋼を刀材としてみた場合、万邦無比などとは決して言えない事である。
 普通鋼(炭素鋼)の和鋼は、普通洋鋼に比べてMn, Si も少なく、粘硬性、錆、低温脆性等に対処出来ない。寧ろ満洲産鉄鉱石の方が日本産砂鉄より、純鉄率、チタン含有率、刀材として必要な有用元素の含有などで遙かに優れている事が解る。

温度管理に成分管理、優れた原材料。

普通鋼の古来日本刀はガラスの様に脆くなる。耐寒性能は興亜一心刀の大きな目的の一つだったが、軍機密への配慮からか、さりげなく説明している。北方戦線で使われる軍刀には必須の条件だった。 

タイタニック号なんかも低温で脆くなっていたことが被害を拡大したと言われてますね。耐寒性能は重要。
これだけ高い水準で工業的に管理された満鉄刀は単なる「数打ち」とは一線を画しているというわけで、しかもちゃんと波紋が有ったりして見た目も美しいっていうんだから大したもんです。
それと、そもそも軍刀は日本刀と言って良いものかどうか微妙なようですね。

 旧軍の九五式軍刀は無垢材を機械的に鍛えられているはず.
 構造的には普通の日本刀よりずっと頑丈で,生産性を考慮した一発焼入れ.
 仕上げは良いとは言えませんが,戦場で使う刀としては非常に洗練されていました

「九五式軍刀」じゃ無いかもしれないけど、柄の破損は多かったらしい。自前の日本刀持ってったら壊れたのかな?

外装の毀損最も多かりしは柄の部位にして、柄の折損、柄糸の摩滅、目釘穴を中心とする諸故障は其の数修理全部の七割に達し、柄の如何に大切なるかを切実に感ぜしめたり。しかも此の事実の新制式外装に殊に多かりしは、甚だ遺憾とする処にして、只徒に外装上の美に囚われ、戦闘に対処するの実質的方面を閑却せるは、畢竟、治に居て乱を忘れたる外装業者の堕落なると同時に一面佩用者が営利に汲々たる御用商人に一任して、注意と吟味とを怠りし自責また決して軽からず。
玩具の白虎刀の柄のような物に、化学漂白の質の脆い鮫皮を巻き、器械製のくるみ糸で巻いた柄では何になろう。
一撃で柄は折れ、然らずんば一戦で糸は切れてバラバラになって了うのである。
柄の折損は、新古ともに『中心(茎)』短き為其の先のあたり(筆者注茎尻) より折れたるもの、新制式にして柄頭金具の下部に柄巻き止め (筆者注頭掛巻留) の穴を穿ちたるものに限り、その穴の辺より折れたるものに一の例外なかりしは、以て後車の鑑戒とするに充分なり。
目釘穴を中心とせる諸故障中の主たるものは、目釘穴の摩滅、目釘の折損、目釘と中心(茎)穴と柄穴の太さの不一致による鍔元の緩みにして、其他鯉口、発條(筆者注駐爪装置)、鞘の故障も相当にあり。

柄長は7寸5分〜8寸が理想、中心(茎)も同寸で柄先まで通すようにすべき。茎の短い物は茎尻付近で柄が折れ、頭掛巻留の穴付近も同様で、例外無しに両方共、その部分で柄が折れている。茎を長くして、刀緒穴と茎尻の穴を一致させるのを理想とする。
柄材の朴の木は弱い。厳選された柾目物は良いが殆ど確保が難しく、新軍刀に使われる斜め取りの不良朴材は不可。柚(ゆず)、梓(あずさ)、胡桃(くるみ)、樫(かし)材が良い。
目釘は竹の節の根本に近い太い物を用いる事。細い目釘は殆ど破損する。
柄糸は木綿を絹糸で包んだ物が9割を占めていた。例外なく目貫の辺より切れ始める。
諸捻り巻きは直ぐに捻りの部分から磨耗する。「一線巻(筆者注一貫巻)」が良い。目貫は大きく長い物が柄補強に有利。
柄の形状は立鼓型が良い。柄巻鮫皮は水分に極めて弱いので漆を塗り、柄糸にはすき漆に片脳油をまぜて薄めたものを塗ると丈夫になる。
柄を金属薄板(筆者注旧軍刀の背金の様な物)で包むのが良い。
こうした成瀬氏の柄の損傷原因と改良提案の幾つかは、後の三式軍刀柄の改良に生かされている。

大分改良加えたんですねぇ。

東京帝大の成形外科医局長で、軍医として今度の事変に出征した伊藤京逸博士は、聞こえた剣客で、実戦場裡から得て、斬るという事の根元は、刀の柄を握る手のその“にぎり”にあるという事を発見し、「にぎり私考」と題して雄山閣の「刀と剣道」誌に発表した。伊藤氏はいう「どうすれば刃筋がよく立つかは、多くの伝書を繙(ひもと)いて見ても、結局“ 能々工夫あるべし”に終わっている。力線の方向に刃筋を立てる事、及び斬り下げて行く間に於いて、刃筋を狂はす不慮の障害が蟠踞するとも、よく其の正しき軌を調整し行くには、右手の拇、示、中指の三指が主体をなすのだと確信する。腕力は第一、二、三掌骨から刀柄に移行する。日本刀全体を生かす所のものは、その人にあり、両手にあると認めた」と結語している。現行竹刀剣術と併行して、そうした真剣の扱い方を修行せしめなければならない。刀の切れ味は柄から出る。(筆者注: 「一に腕、二に刀」と項目名をつけ、腕の重要性を指摘している。このことは、古岡二刀斎師(軍刀雑抄参照)の言う「手の内」と同じことを述べている)

やっぱり握り重要。
他にもスプリングから作った刀の話とか色々あって面白い。無銘の古刀で焼きの甘いものが良かったとか、昭和刀と呼ばれるものでも日本刀と違う一枚ものは良かったとか。
手作りの伝統を守るので無ければ割り込みする必要無いのかも?洋包丁みたいな感じか。